サスケ
作品の変遷
発行暦
 1- 月刊誌『少年』全55回 (第一部:1961年7月号-1965年2月号、第二部:1965年5月号-1966年3月号/光文社) ※連載
 2- 貸本『サスケ』全20巻 (1962年7月1日-1965年発行/青林堂) ※続刊の発行中止により途中までの収録
 3- コンパクトコミックス『サスケ』全15巻 (1966年9月30日-1967年4月30日発行/集英社)
 4- 白土三平選集『サスケ』全8巻 (1969年12月25日-1970年11月10日発行/秋田書店)
 5- 講談社コミックス『サスケ』全15巻 (1974年1月30日-1974年8月5日発行/講談社)
 6- 旧小学館文庫『サスケ』全15巻 (1977年2月20日-1978年2月20日発行/小学館)
 7- 小学館叢書『サスケ』全8巻 (1990年5月10日-1990年12月10日発行/小学館)
 8- 小学館文庫『サスケ』全10巻 (1995年12月10日-1996年4月10日発行/小学館)
 9- My First BIG Special 『サスケ』全9巻 (2005年10月14日-2006年6月9日発行/小学館) ※雑誌扱いコンビニ本
 10- 新装版白土三平選集『サスケ』全8巻 (2009年7月10日-2009年10月10日発行/秋田書店)

『サスケ』の新連載第1回目は、月刊誌『少年』1961年7月号のP141からP155まで、扉絵含む全15枚が掲載された。 フルカラー頁は扉絵と、P144の原稿部分1枚のみ、あとの13枚は青インク一色。 扉絵はこの後どこにも使用されていないので問題ないが、カラーで描かれた原稿部分はこの作品に限らずあとで大体画き直されている。 新連載第1回目は下の青インクの画像部分まで。

※左から『少年』P144、P141、P155、P154

その丁度一年後に発行された貸本版では写植が全て打ち直される。 扉絵を含まない14枚中、貸本化の際の画の部分の変更は上のカラー原稿1枚と、上の広告部分(P154)補完のみ。 カラー原稿だった部分は忠実にトレースしたものを使用。それにより三コマ目「ワンワン ウワン」が「ワンワン ヴワン」に変化している。 連載時の『少年』P154の頁までがフルカラーで収録されているが、これは元原稿をコピーしたものに色をつけるなどの色指定でなされている。

※貸本『サスケ』第1巻(1962年)P6と表紙カヴァー

その次に発行されたコンパクト・コミックス版でも写植は全て打ち直される。 なぜかもう一度描き直されたこの原稿。忠実にトレースしたものだが、すこし粗い。 第1巻表紙画はタイトル文字サスケの2mm程下にうすく境界線が見えるので上の部分を描き足したのだろう。それに色味が赤っぽい。 カラー頁はないが、貸本第1巻と同じ登場人物紹介頁が収録されている。

※コンパクト・コミックス『サスケ』第1巻(1966年)P10と表紙カヴァー

そしてその次の白土三平選集『サスケ』第一巻。ここでこの頁は元のものにこだわらない描き直しがされ、動物描写はリアルになる。以降この頁の描き直しは無い。 この版は連載時『少年』P154の頁まで全て二色カラーで収録されている。4度画かれ発表された、時代の産物的現象について比較を終える。

※白土三平選集『サスケ』第1巻(1969年)P6と外箱


次に写植の変化について。

漫画は画と文字で成り立っている。この表現媒体の作品は、画と文字に分離することは出来ず、合わせて一つのものだ。 しかし、「漫画」はまだ新しい媒体であり、その分離加工がしやすい分それが多分に行なわれている。 その曲折した方向の一つがセリフの「言葉狩り」である。作者の意図とは関係なく、その文字要素のみ出版社会的な理由で歪められる。 この問題を内包しているのはもちろん白土作品だけではない。この一面に対して私は全くの否定意識をもっているが、漫画作品を作品として世界、そして後世に残すのならば、こういう声をあげることは間違ったことではないと思っている。

では、ここで白土三平選集『サスケ』(1969年)とコンビニ本『サスケ』(2005年)の写植の比較を下に全て列挙する。 実際数はそんなに多く無く、『カムイ伝』のように地名まで変えられるような変化、インパクトはない(全集版第4巻の「盲目岩→目無岩」)。ただ「カモン!」が「来いよ!」になったのには皆驚いたのではないかと思う(この改変は小学館文庫版から)。 巻数表記および頁数はコンビニ本『サスケ』のものとする。


 第1巻: P9「気がくるわれたか!」→「血迷われたか!」
 第2巻: P110「ウワーッ気がくるいそうだ!」→「ウワーッ頭が変になりそうだ!」
 第2巻: P220「カモン!」→「来いよ!」(初出では「カッモン!」)★
 第2巻: P223「ストレートだ」→「顔面だ」、「ボデーだーっ」→「みぞおちだーっ」(初出では「ボディだ!」)★
 第2巻: P261「おまえ気がくるったのか!」→「おまえ血迷ったのか!」
 第4巻: P124「気が狂ったか……」→「気が変になったか……」
 第4巻: P152「めくらのうぬも最後だ!」→「うぬも最期だ!」
 第4巻: P165「ナニッ盲」→「ナニッ目が見えない!?」、「ニワカ盲なもので……」→「急になったもので……」
 第4巻: P167「なにしろニワカ盲ゆえ」→「なにしろ突然のことゆえ」
 第4巻: P169「盲!!目あきより」→「なかなか」、「盲に目あきが」→「目が不自由でおれが」
 第4巻: P173「盲は盲さ目あきに」→「目の不自由なおぬしがおれに」
 第4巻: P271「癩病」→「ハンセン病(当時は「癩」といわれた)」、「癩病」→「ハンセン病」
 第4巻: P349「ウスばかの姿は消えていた」→「フーテンの姿は消えていた」
 第8巻: P32「アフリカの土人」→「アフリカの原住民」

画の部分の変化は2点(第1巻P78の二コマ追加と第5巻P346の文章追加)と、セリフ部分の微調整も(数えられるほどではあるが)一部ある。 部分的な細かいミスの修正などで出版の新しいものの方が優っているのは言うまでもないが、その必要性の問題となると難しい。 表現と解すればミスも作品の内といえることもあるからだ。ただ白土三平選集版で消すことが出来ていなかった一部の違和感を細かく消そうとしてきた努力の跡があるのは確かだ。

次に同じく白土三平選集『サスケ』(1969年)と、今度はその新装版(2009年)の差異を載せる。 上のものは「秋田書店→小学館」と異なる出版社による改変だが、これは40年経って同じ秋田書店による写植置換。 小学館がこの40年の間に各種単行本出版の際成して来た微調整はもちろん反映されていない。

 新装版第1巻: P7(旧版ではP5)「気がくるわれたか!」→「ご乱心めされたか!」
 新装版第2巻: P27(旧版ではP25)「片目の忍者」→「あの忍者」★
 新装版第2巻: P49(旧版ではP47)「ウワーッ気がくるいそうだ!」→「ウワーッど どうなってるんだこれは」
 新装版第2巻: P154(旧版ではP152)「くさいわ・・・・・・・・・」→「におうわ・・・・・・・・・」★
 新装版第2巻: P197(旧版ではP195)「おまえ気がくるったのか!」→「一体どういうつもりだ?」
 新装版第2巻: P301(旧版ではP299)「オシの敵」→「無言の敵」★

第2巻までの調査だが、原稿部分の改稿は見当たらなかった。一箇所、新装版第1巻P173の空白部分に「絵」の追加があり、これは巻末で「デザイン処理を施した」と断わっている。 写植の修正は予想に反して小学館より厳しい。 ★印のものが小学館発行のものにはない表現修正で、巻末にはさらに牽制するように「差別的な言葉がありますが(中略)オリジナリティを尊重」の文章を載せている。 出版界の不思議なところだ。「片目の忍者」という言葉はこのすぐ後にも出てくるし、小学館も(他の巻であるが)「ウスばか」の訂正をしているが他ではそのままの箇所もある。 あまり厳密ではなく、姿勢を示すことが重要なのだろう。