猿飛誕生
作品解題


貸本「忍者旋風2号 炎の巻」(1959年8月20日発行)の巻頭を飾った作品。以下、作品の要約。

猿飛を倒した忍者の前に数人の猿飛があらわれ言う、「猿飛というのは人の名ではない街の名だ 猿飛の術をつかう者はすべて猿飛なのだ」。「猿飛佐助この人物は架空の人物であって実在しなかったようだ。しかし真田にすぐれた忍者がいたのは事実であって、その中に猿飛なる術をつかうものがいたのだろう。新陰流の兵法目録の中にも猿飛という秘太刀がしるされている。猿飛という名は人名ではなく術の名と見る方が正しいのではないだろうか?だから有名な霧隠才蔵なども実は霧隠れなる術をつかう者のことをいうのではないだろうか?」というのがプロローグである。物語は天正元年夏、伊賀の国鈴鹿山山中の姉弟の話。家に居た姉が猿(代官猿軍太夫)に襲われる。猟師である弟の佐助はかつて父を殺したその猿を追って山中に入った。そこで佐助はあやまって甲賀流忍者猿飛に矢を当ててしまった。猿飛は武田信玄を殺してきた後だった。謝る佐助に瀕死の猿飛は催眠術で任務を託す。猿飛になった佐助は姉にも気付かず、任務の報告に向かう。「一人の猿飛が死んだ……そしてここに新しい猿飛が生まれたのだ………」。

プロローグの部分は、1961年の「サスケ」冒頭にほぼ同じく使用している。ラスト代官猿軍太夫は野放しのままだが、これも1961年「狼小僧」の第8章「友」で登場させ狼小僧が倒している。 しかもこれは面白いことに、1961年5月末という「サスケ」冒頭とほぼ同時期に描かれている。 この時の白土の中に「やはり悪者は倒しておきたい」的意識が働いたのかもしれない。