傀儡がえし/くぐつ返し
作品解題

※左から初出扉、その2頁目、ガロ再掲載時の扉、その2頁目

雑誌「少年」1963年お正月増刊号(光文社)に発表された作品。全33枚。 当初は「傀儡がえし」というタイトルだったが、1968年GC「忍法秘話」第1巻収録時に「くぐつ返し」となる(それでも作品末には「一九六二年十一月十七日「傀儡がえし」完」の表示)。 以降小学館発行の単行本では全て「くぐつ返し」に統一されるが、青林傑作シリーズ26「傀儡がえし」(青林堂)と、文春文庫ビジュアル版「'60年代傑作集 マンガ黄金時代」(文藝春秋社)には「傀儡がえし」のタイトルで収録されている。 初出から内容の変化は無いが、初出時カラーだった扉絵とその次の頁は1964年の「月刊漫画ガロ」再掲載時忠実に描き直されている。 この時扉絵の描写の操り紐とキャラクターとの接点に「結び目」が描き足される。それ以降、絵部分の変化は無い。

この短編作品には「カムイ外伝(第一部)」暗鬼(1965年12月3日脱稿)や「ワタリ」第二部(1966年3月8日〜1966年10月15日脱稿)の前身ともとれる疑心暗鬼の要素がある。 「観世音」とは、「世の苦しみの声を聞く(と、ただちに救済の手を差し伸べる)」という意味だ。 少女の名前は「音」であるのでそれだけでは「苦しみの声を発する」意、つまり自ら苦しみを与え、それを自ら救うという意味を表した忍名である。 0の忍者の正体は術であり、人ではない。赤目の観世音というのも麻薬(ケシ)の代名詞であり、術者は誰でも(子供でも)よい事となっている。 「忍者武芸帳」の螢火が最期に言ったように、忍者とは術なのである。よってつまるところ忍者に正体など無い。戦争もまた然り。 「知識」を多く持っているというだけではまだ術者ではない。術を利用した「経験」を経て初めて術者とよばれて良いこととなる。 術者になりたければ時・場合・場所・自然・人・言霊、そういった周りのものを常にどんな時でも巧く利用できる知恵を備え、準備をしておくことである。 そして自分を意識せず、決まった型も無く、その場所、無意識のまま自身を未曾有に変化させることが出来る様になって初めて、術が生きるのだ。人ではなく術(「以外」)が主なのである。

「少年」増刊号初出の作品
・「掟」:雑誌「少年」お正月大増刊探偵ブック(1961年1月15日発行)
・「寄生木」:雑誌「少年」お正月大増刊探偵ブック(1962年1月15日発行)
・「赤い竹」:雑誌「少年」夏休み大増刊スリラーブック(1962年8月15日発行)
・「傀儡がえし」:雑誌「少年」お正月大増刊スリラーブック(1963年1月15日発行)
・「四貫目」:雑誌「少年」お正月大増刊スリラーブック(1964年1月15日発行)
・「大咬」:雑誌「少年」夏休み大増刊スリラーブック(1964年8月15日発行)
・「因童」:雑誌「少年」お正月大増刊スリラーブック(1965年1月15日発行)
誤植
1968年以降、重大な写植ミスが起こってしまっている。これは現在でも修正されていない。

「ケシの花はなぜうつくしゅうござる」 「魔物がけしょうしてうつくしゅうなってござる」 「ケシの花はなぜあこうござる」 「人の血をすうてあこうなってござる」
※1963年発行の雑誌「少年スリラーブック」お正月大増刊収録の「傀儡がえし」より(P158-159)

「ケシの花はなぜ美しゅうござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「ケシの花はなぜ赤こうござる」 「人の血をすうて赤こうなってござる」
※1964年発行の雑誌「月刊漫画ガロ」1964年10月号収録の「傀儡がえし」より(P34-35)および、その返品本の再製本である「忍法秘話別冊 白土三平傑作選集」

「けしの花はなぜ美しゅうござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「けしの花はなぜ赤こうござる」 「人の血をすうて赤こうなってござる」
※1967年発行の雑誌「少年マガジンコミックス」ワタリ6秋の特大号収録の「傀儡がえし」より(P252-253)

「ケシの花はなぜ赤うござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「ケシの花はなぜ美しゅうござる」 「人の血を吸うて赤うなってござる」
※1968年発行の単行本GC「忍法秘話」第1巻収録の「くぐつ返し」より(P206-207)

「ケシの花はなぜ赤うござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「ケシの花はなぜ美しゅうござる」 「人の血を吸うて赤うなってござる」
※1971年発行の雑誌「COM(こむ)」1971年11月号収録の「傀儡がえし」より(P156-157)

「ケシの花はなぜ赤うござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「ケシの花はなぜ美しゅうござる」 「人の血を吸うて赤うなってござる」
※1977年発行の単行本旧SB「忍法秘話」第4巻収録の「くぐつ返し」より(P140-141)

「ケシの花はなぜ赤うござる」 「魔物がけしょうして美しゅうなってござる」 「ケシの花はなぜ美しゅうござる」 「人の血を吸うて赤うなってござる」
※1979年発行の単行本青林傑作シリーズ26「傀儡がえし」収録の「傀儡がえし」より(P176-177)

…以降の単行本も同様なので省略する。簡単にいうと単行本に収録のものは全てミスということだ。