ワタリ |
作品解題 |
「週刊少年マガジン」1965年4月25日号(18号)から1967年9月10日号(37号)にかけて全111回連載された。1967年に映画化しており、この作品からヒントを得た海外の映画がある。実現されなかったもののアニメ化の企画が挙がったこともある。
全三部から成り、下はその内訳と新連載雑誌掲載時の紹介文。
第一部(全44回) : 1965年4月25日号(18号)〜1966年2月27日号(8号) 第二部(全36回) : 1966年4月10日号(14号)〜1966年12月11日号(49号) 第三部(全31回) : 1967年2月12日号(7号)〜1967年9月10日号(37号) ※予告頁、新連載扉、第三部開始扉 「白土三平先生の旅行のひみつ」 新連載まんが「ワタリ」をかく白土三平先生は、新しいまんがをかくとき、よく旅に出る。しずかなところにいき、ひとりで考えると、いつもすばらしい作品がうまれるのだ。だから先生は、ときどきぶらりといなくなる。あるときは、北海道までいってしまう。そして、その旅行中に、こまかいすじまで考え、完全なまんがにつくりあげるのだ。「ワタリ」も、旅の中でうまれた。先生は、これこそ忍者まんがの決定版だ、と強い自信をもっている。 ※「週刊少年マガジン」1965年4月25日号より |
あらすじと考察 |
この作品は初出から「WHAT IS WATARI ?」という副題が付いており、ミステリー仕立てになっている。以下作品のネタバレを含むので注意。
外部の何ものにも縛られない集団「ワタリ一族」に所属する老人四貫目と少年ワタリが伊賀の里に入るところから物語は始まる。四貫目は元々伊賀の里にいたことがあり、登場時怪我をしているが、その詳細は語られない。当時伊賀の里は百地と藤林に分割されていた。2つの勢力は、お互い干渉せずに、各々仕事をしていたが、最近「死の掟」というものを知ってしまったということで仲間に殺される者が増えていた。みなその「死の掟」がどんなものなのかを知らず、上の命令で仕方なく仲間を殺す悲しみを抱えているのだった。ワタリは伊賀で出会った仲間と共にその謎を解明しようとする。しかし、上の命令で動く者たちの妨害で、なかなか真実にたどり着けない。妨害する者たちは、慣例通りというよりも、仕事を貰っている以上逆らえないので、仕方なく言われた通り行動するのだった。 ワタリが仲間を失い暴いた真実、その「死の掟」の内容は、両勢力を支配する上忍二人(百地三太夫と藤林長門)が実は同一人物であるというもので、しかもその下の中忍二人(音羽の城戸と楯岡の道順)も同一人物、さらにその中忍が陰で上忍をもあやつり、全伊賀を支配しているというものだった。謎の解決と共に、四貫目とワタリは伊賀の里を去り「ワタリ一族」のもとに帰っていく。 と、ここまでが第一部。そのように伊賀の里を2つに分割し、お互いをいがみ合わせていたのは一人の男、中忍城戸であったことが明らかになる。 支配階級のいなくなった伊賀の里では、ワタリとともに問題を解決した赤目党が先導となって、より暮らしやすい郷作りを目指していた。働いた賃金はみなに平等に分配する社会が実現したと思われた。しかし、拘束されている城戸が言う、自分は闇の領主の命令で動いていたのだと。そしてその言葉通り、どこからともなく出現した0の忍者がその超絶的な力で、赤目党員を殺していくのだった。伊賀の仲間たちは、その力を恐れ、最後まで反抗した赤目党員最後の一人オビトを自分たちの手で殺すのだった。 ワタリは変装し、兄貴分であるクズキとともに再度伊賀の里に入る。伊賀の里ではクズキがワタリに変装して行動する。苦労をし幾度倒しても、0の忍者の仮面の下の人物は催眠術で操られた仲間であるのだった。そのからくりを、ワタリはクズキの死と引き換えに知る。それは城戸による催眠術と、彼に幽閉されている老人の発明による武器であった。そして伊賀の住民が城戸に死を突きつけた時、追い詰められた城戸が狼煙を上げる。その狼煙を合図に織田信長の軍が伊賀の里に攻め入り、伊賀は全滅してしまう。城戸はそれに巻き込まれて死に、ワタリは去っていく。だがその様子を、城戸の自演であるはずの0の忍者が崖の上で笑みを浮かべ眺めていた。 と、ここまでが第二部。この時点ではワタリも、酷い男がいたものだというただ一個人の悪巧み、暴走であったのだと信じ込んでいる。 第三部は、それまでの「解決」が「序章」に過ぎなかったこと、さらに自組織内の疑心暗鬼、目に見えるものばかりが全てではなく、意識していなかったもっと大きな力の存在、といったところが示される完結編である。 ところでこの第三部の部分は一番重要だが、ある意味必要も無いのではないかと感じてしまう。「思想」という観点では第二部までにある要素の発展形であるし、作者の言いたいことは第二部ラストから推察することができるからだ。かつて白土が「白土三平選集」に第三部を収録しなかった理由は下のようなものだが、この辺の考えも含んでのことだったのではないかと推測している。 残余のワタリは確かにありますが、実情を申上げますと、作者が病気のため、執筆不可能になり、窮余の策として、赤目プロの方々が代作されたものです。従って、厳密な意味で白土作品とは申せないものです。選集刊行に当り、作家の良心として、先生はそれを拒否した次第です。この間の事情、ご賢察いただきたいと思います。 ※「白土三平選集」第6巻(1970年)付属の月報より しかし、あえて示されたこの第三部の終わり方も、私は好きだ。表面的には悪が全て残り、同志を全て失った主人公の逃避という結果だが、主人公も主人公の敵も世の中の新しい流れを自分なりに解釈した結果での行動であるという点で素直に受け入れられる。それ故に、この先の新たな展開への想像も膨らんでいく。姫丸の行動から、初期作品「嵐の忍者」(1959年)の左近の要素を垣間見ることができるのも嬉しい。 現代にも通ずる共同体論、グローバリズム精神が巧みに表現されているこの作品が、白土の代表作と呼ばれてはいないのが、その懐の深さを物語っている。こんな作品を、「カムイ伝」「カムイ外伝」などと同時期に、しかも週刊誌に連載していたということに驚嘆する。 |
文字註釈一覧 |
下は作品内の文字註釈の部分などに適当に簡単な小題を付け並べたもの。巻数・頁数は小学館文庫版のもの。 太陽が出ているうちのオボロ影の術についての説明は無い。霧の出ていない場所でも可能なのかが気になる。 |
巻数(小学館文庫) | 頁数 |
第1巻 | P011:忍者(上忍・中忍・下忍)の説明
P025:カブトわりの説明(は他作品で紹介ずみ) P032:死巻の図解 P047:百地三太夫・藤林長門1 P064:オボロ影の術(夜)の図解 P095:血引きの図解 P109:染料 P110:百地党・藤林党略図 P111:百地三太夫・藤林長門2 P171:オボロ影の術(水)の図解 P176:タンジンの術の説明1 P185:催眠術 P238:タンジンの術の説明2 P286:春花の術の説明 P295:土遁炎がくれ・火遁ほうせん火の術の図解 P321:カズラ自殺によるタンジンの法の図解 P392:水中での会話法 P397:乱心法水遁暗夜の法 P410:カカ(蛾の別名) P412:鳥や虫と音波 P422:蛾の説明 P444:ギバチの術の説明 P446:にせロウソクの図解 |
第2巻 | P025:空気銃の説明
P036:じいの足の銃の説明 P042:クグツメの原理 P049:カゲロウの術の説明(は他作品で紹介ずみ) P200:真空切り・オボロ影の詳しい説明(は次の機会) P207:九字をきるの説明 P234:如影の術・螢火の術の説明 |
第3巻 | P009:ヘビ対ヒキガエル
P011:神念無投流 P062:カンノンが原 五つ石 P064:ワタリの飼ってるコゲラ P068:オボロの術の道具 P071:タンジンの術,飛竜剣 P110:一文字・二文字・八文字天びん,火炎の術・天足おとし P146:大和高原の一角 ワタリ一族のたまり P156:天足逆流れタンジンの術 P164:竜針 P187:板取城・九重城 P191:赤土の一本杉 P210:ハンザキの大群 P212:歌1 P219:歌2 P220:二羽のフクロウ P258:0の忍者の目の光の説明 P273:変り身乱心法石遁の術 P274:真空切り(心の一方)の説明 P286:ワタリ忍法 黒流の術 P287:ワタリ忍法 白流の術 P291:歌3(からす) P296:真泥峠(百地と藤林との国ざかい) P312:カワセミの太刀 P325:二羽のフクロウ P339:八雲の術(一の雲〜七の雲、八の雲は死の雲) P374:逆卍 P382:歌4(0の忍者の歌) P386:0の忍者の中身(初めオドラ→オビトの弟) P389:護符の説明(0の正体) P403:天正九年三月伊賀の乱 |
第4巻 | P026:わたり渡世の者 |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 夏の特大号 第一部 第三の忍者の巻 1 発行 : 1966年8月5日 (7月18日発売) 定価 : 130円 全268頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (プロローグ/オボロ影/血引き/夜泣き岩/くの一) 鬼 |
特集号第1冊目。巻頭には白土が作詞した名曲「ワタリの歌」の歌詞が第3番まで載っており、その下におきて柱のシルエット(SB版第1巻P70の3コマ目に類似)が入っている。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10) / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 2 初秋特大号 第一部 六人の忍者の巻 発行 : 1966年9月15日 定価 : 130円 全270頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (赤目党/タンジン/ワタリ一族/六人の忍者/カカつつみ) 四貫目 |
特集号第2冊目。巻頭には映画「大忍術映画ワタリ」(1966年7月公開)監督の船床定男による文章「わたしもワタリの大ファン」が載っている。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10)、巻中1頁(P219)※「四貫目」扉 / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 3 秋の特大号 第一部 死のおきての巻 発行 : 1966年10月25日 定価 : 130円 全270頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (死闘/真空ぎり/月影/死のおきて) 大咬 |
特集号第3冊目。表紙画は連載第1回目扉絵の流用。ジョージ秋山の「テンズレ」が併せて収録されているが、これは「ワタリ」のパロディーギャグ漫画。 こういった時期を思い返すと感慨深い。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10)、巻中1頁(P219)※「大咬」扉 / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 4 春の特大号 第二部 0の忍者の巻 前編 発行 : 1967年3月25日 定価 : 140円 全300頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (闇の大老/赤羽の矢/地割れ/不死鳥) |
特集号第4冊目。巻中に収録の「白土三平先生まんが人気のひみつ」は、白土の近影写真2枚や「狼小僧」「風の石丸」のコマを織り交ぜた白土作品の紹介頁。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10) / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 5 初夏の特大号 第二部 0の忍者の巻 後編 発行 : 1967年5月20日 (5月6日発売) 定価 : 140円 全300頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (カブラ/八ツ目/ふくろがえし) |
特集号第5冊目。滝田ゆうの「風小僧」が併載されているが、これはワタリのパロディーではない。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10) / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 6 秋の特大号 第三部 ワタリ一族の巻 前編 発行 : 1967年11月5日 (10月25日発売) 定価 : 130円 全268頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (さそい水/地割れ/なかたがい/罠/かげろう/不死身) 傀儡がえし |
特集号第6冊目。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10) / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |
講談社 週刊少年マガジン コミックス ワタリ 7 お正月特大号 第三部 ワタリ一族の巻 後編 発行 : 1968年1月3日 (12月23日発売) 定価 : 130円 全268頁 ※表紙から裏表紙まで |
収録作品名
ワタリ (三鬼/地すべり/異変/誘引/背走) 無名 |
特集号第7冊目。 |
カラー頁の有無
フルカラー:巻頭4頁(P3,6,7,10) / 二色カラー:巻頭20頁(P4,5,8,9,11-26) |