忍者武芸帳 |
初出と作品の変遷 |
この作品のスピンオフ作品として「無風伝」(1965年)がある。1967年に映画化しており、実現されなかったもののアニメ化の企画が挙がったこともある。 |
初出 |
貸本全17冊で発行。タイトル「忍者武芸帳」は長井勝一のアイデアで、白土の提案した「影丸伝」が副題になっている。 三洋社から刊行されたが、最後の2冊は東邦漫画出版社から発行された。 各巻記載の脱稿日と発行日は初出一覧頁に載せたが、貸本に記載の無い第15巻までの発行日と、 第5巻の脱稿日は「白土三平初期異色作選」付属「白土三平完全作品リスト」(1999年6月時点)のものをそのまま写している。 各巻巻頭二色カラーだが、第10巻のみはオール二色カラーになっている。 第2巻は「2月20日頃発売予定」との広告が貸本「忍豪ブック忍風」第1号にある。 ちなみにこの作品の主人公の一人である影丸は、「狼小僧」や「サスケ」にも登場する。 |
忍者残酷抄 |
1962年に同じ三洋社から貸本「忍者残酷抄(忍者武芸帳分冊版)」全1冊(170円)が発行されている。
この本は初出貸本第1巻のP156上半分までの内容で、原稿はパッと見同じ様だが全頁忠実にトレースしたもの。よって写植も新たにうち直している。忠実なトレース版ではありながら、顔が崩れている部分も多い。
頁枚数は少し削減されており、初出貸本第1巻のP24、P51、P65、P76、P77、P82、P89、P134-P137(休憩室)の頁が省かれている。
各タイトル文字が削られ、目次頁も無い、よって初出貸本第1巻より内容のカラー頁部分が1枚分多くなっている。
表紙には新たに描き下ろした絵が使用されており、これは貸本「忍者武芸帳」全17冊の廉価な宣伝サンプル本ととっていいだろう。
…と長く思っていたが、これはどうやら「三洋社」とあるが海賊版であったらしい。
1962年半ば発行の貸本「忍者武芸帳」第16上巻巻頭に「作者に無断にて忍者武芸帳(影丸伝)を忍者残酷抄なる題に変え模写による再版が行われていますが,作者は責任をおいません」との文がある。
※左は初出貸本第1巻P56と「忍者残酷抄」P52、右は初出貸本第1巻P156と「忍者残酷抄」P143(最終頁) |
作品の変遷 |
初出貸本の次に全巻発行されたGC版(1966年)では、多くの描き直しがある。その箇所についての比較を書く。全部だと大変なので、比較は原稿紛失の無い第1巻と、逆にほぼ全ての原稿が描き直しである第2巻のみとし、細かいミスの修正などについては省く。第2巻までの収録内容構成は初出貸本、GC版ともに同じ。
貸本の裏表紙画は第15巻まで(三洋社発行のもの)全て同じものを使用している。それと同じ構図であるGC版表紙画も全巻全て同じものを使用している。下は左から貸本第1巻の表紙画と裏表紙画、そして一番右がGC版の第1巻表紙画。 第1巻の内容比較に移るが、全頁原稿は同じ。故に細かい変化のみを以下に列挙する。下の2枚は原稿は同じだが、全てのタイトル文字の部分が描き直されている。また、注意して見比べるとGC版は右端部分が斜めにカットされていることに気付く。これは左右を平行にするため全頁に亘り行われている改稿だ。 ※初出貸本第1巻P174 ※GC版第1巻P172 GC版では動物の発声が写植になる。それ以外のフキダシ内書き文字についてもほぼ写植になっている。それでもGC版の次に発行された「完全復元版 忍者武芸帳」(1970年)以降のものでは、嬉しいことにGC版で入れ替わってしまったミス写植(GC版第1巻P99)や改ざんされたセリフ、元書き文字だったセリフ部分などが一部元に戻してある。 ※初出貸本第1巻P76より ※GC版第1巻P78より 次に、手紙の文字、立て札の文字が読みやすく書き直されているので、下に元のものを載せる。文字部分書き直しはGC版第2巻P14の立て札などにおいても同様におこなわれている。「若、おげんきすか。」に脱力する。 ※初出貸本第1巻P180、P239より 初出貸本第1巻には、途中4頁に亘り「休憩室 疾風剣について」というものがあった。GC版では第1巻のP135とP136の間にあったもので、第1巻巻末に文章のみ移し収録された。「完全復元版 忍者武芸帳」には貸本時と同じように復元収録されている。よってこれは原稿の紛失ではなく、物語の流れを止めないよう故意に割愛したのだろう。作者がキャラクターで登場、同人誌みたいだ。 ※初出貸本第1巻P134-135 ※初出貸本第1巻P136-137 ここから第2巻の内容比較に移る。第2巻は貸本時のカラー頁以外全ての頁(GC版P21から巻末まで)が赤目プロ(小島剛夕)による描き直しである。一部描写の比較のみを下に並べる。左が初出、右が1966年の描き直し。 ※初出貸本第2巻P36より ※GC版第2巻P40より ※初出貸本第2巻P40より ※GC版第2巻P44より ※初出貸本第2巻P41より ※GC版第2巻P45より ※初出貸本第2巻P93より ※GC版第2巻P97より ※初出貸本第2巻P116より ※GC版第2巻P120より ※初出貸本第2巻P203より ※GC版第2巻P209より 描写はリアルになり、螢火の目は二重に、影丸の髪は逆立った。螢火はサエサになり、重太郎はカムイ(「カムイ外伝」(第一部)の白土画カムイではなく、「カムイ伝」第一部の剛夕画のほう)になった。 動物は描き直し前のほうが生き生きしてみえる。この影丸の描写・動物描写が「狼小僧」前半のものと似ているのは、両方共ほぼ同じ時期に剛夕によって描き直されたからだ。 これで「忍者武芸帳」のこの範囲だけ描写が違う理由、その象徴的と思える部分を抜き出した比較を終える。 最後に、「忍者旋風」変遷比較の最後で書いた「描き直されたら笑っている描写」をこの作品でも見つけたので下に載せる。 ※初出貸本第2巻P145より ※GC版第2巻P149より |